2013年7月29日月曜日

スペイン列車事故を考える-鉄道が目指すべき姿とは?

楽しいはずの列車の旅が、一瞬にして大惨事と化したスペイン北西部サンティアゴ・デ・コンポステラの高速鉄道の脱線事故。
現地時間25日現在で、被害者数は、死者80名 負傷者178名に上った。

「聖ヤコブの日」の祝祭を控えてにぎわい始めた聖地を襲った、最悪のニュースとなった。

日本のメディアでも、監視カメラの映像による、制限速度80キロの場所をおよそ190キロで疾走する列車が脱線する瞬間を捉えた映像が繰り返し放映され、事故の凄まじさが脳裏に焼付く。

直接的な原因は、スピードの出し過ぎによるものと思われるが、何故このような事故が起こったのか?というと、別の顔が見えて来る。

スペイン国鉄の高速鉄道では、延着の際料金の払い戻し制度がある。
16分から30分では50%、30分を超えた場合100%を返却するというもので、当然ながら乗務員は、延着を避けようと、遅れれば速度を上げることになる。

事故を起こした車両も、事故現場付近でおよそ5分、正規のダイヤよりも遅れていたそうで、事故現場付近では、今回に限らず制限速度を超えることが半ば恒常化していたという証言もあるようだ。


ここで、「ん?どこかで聞いた話ではないか?」と感じるのは私だけであるまい。
そう、日本でもJR西日本の福知山線の脱線事故が同じ構図であった。

2005年4月25日の朝のラッシュ時に兵庫県尼崎市で起きた列車事故は、死者107名、負傷者562名を出す未曾有の大事故であった。

事故後の調査で明らかになったことは、教訓に満ちていた。
当時 JR西日本は当該路線において、私鉄競合他社と乗客を奪い合う熾烈な戦いを強いられており、スピードアップによる所要時間短縮、運転本数増加が求められていた。
厳しい社内規約、遅れに対する乗務員への罰則、余裕のないダイヤでの運行などという 決して良いとはいえない社内環境が明るみに出た。

起こるべくして起こった事故と言っても過言ではあるまい。


そして今回スペインで、図らずも日本と同じような構図の悲惨な事故が起こってしまった。



高速化は、世界中の鉄道業界の命題となっている。
今やヨーロッパ各国、アジア各国においても凌ぎを削る競争が起きており、そんな中、2011年7月の中国鉄道での衝突脱線事故も記憶に新しい。
いったい鉄道会社はどこへ向かっているのであろう?


一方で、今回のニュースに接して思い出したのが、スイスを旅した時のことである。
スイスの鉄道は、とても時間に正確で、清潔、安全性も高く、そして乗客への親切さが心に残る。

このスイス鉄道、他のヨーロッパの鉄道とは異なった意味の高速化を選択した。
このことを少し検証してみたい。

スイス鉄道は、九州より少し小さい国土に総延長距離5,380㎞が敷設され、国内の路線密度は世界一である。スイスは観光立国であり、国民だけでなく、多くの旅行者が鉄道を利用する。

国土の2/3が山岳地帯で、1000m進むと標高が480m上がるという急こう配や、標高3,454mという世界一の標高のユングフラウヨッホ駅などがあり、景色も素晴らしいが、鉄道を敷設する場所としては難所も多い土地柄だ。


上記のような環境のため、高速化といってもいわゆる高速鉄道の敷設ではなく、在来線の改良による高速化を選択したのである。

複線化、路線増設、路線間を結ぶ短絡線の建設などで乗り換えの利便性を向上させることで、路線網全体で所要時間を短縮する高速化を目指した。

山岳地帯ということもあり、大きな荷物の旅行者が多いため、旅荷を目的地まで別送するシステムを設けたり、見やすい表示、わかりやすいガイダンスなどを充実させることで、旅行者に優しい鉄道を実現している。

これは、Rail2000(ドイツ語でBahn2000)プロジェクトという、スイス鉄道全体の改善計画によるものだ。

この結果、時間は短縮されても、サービスの質は低下しない、利用者の利便性を考慮した定刻通りで且つ殆ど車内で立つことがない、素晴らしい運行を可能にしている。



翻って我が国の昨今の特に都心部での鉄道の状況を改めて見てみると、毎日のように乗客同士のもめごと、痴漢、線路内立ち入りなどのトラブルが発生している。
人身事故などの影響も合わせると、都心部ではほぼ毎日、どこかしらでダイヤが乱れている状況だ。

そもそも考えなくてはならないことは、鉄道は公共交通機関であるということだ。
つまり、運行する側だけの努力では改善は難しいのも実情だ。

ラッシュ時を避ける通勤、無理な乗車をしない、車内のマナーを守るなど、乗客にも出来ることは多くある。

先日、列車に挟まった乗客を40名近い他の乗客が駅員と協働して救助するという出来事があり、海外メディアに賞賛された。

このように利用する側も、「自分も環境をつくる構成員なのだ」という意識や品格を持つことで、鉄道の利用しやすさを向上させる一助は十分に担える。

そして、鉄道各社も単にスピードだけに着目するのではなく、心地よさ、快適さを追求する姿勢があっても良いのではないだろうか?

外国の方にとって、わかりやすい、利用しやすい駅なのか?
お年寄りや体の不自由な方に優しい設備は整っているのか?
乗換が解りにくい、遠い、渋滞して歩けないなどの不具合がないか?
などなど、スピード以外でも向上すべき内容は沢山あるのではないのか?

寧ろ、上記の問題をそのままに、単にスピードを上げてもトータルの所要時間は変わらない、若しくはほんの少しのトラブルでも起きれば、大きく遅れることすら十分に起こり得るのである。

何よりも、安全は鉄道にとって最も大切な目標である。
スピードが優先され大事故を誘発するなどということは、あってはならない。

鉄道各社も、そして利用する我々も、安全性を無視した劣悪な通勤環境でも1分を争い、会社に着くころにはくたくたな状態に甘んじるのではなく、余裕をもった通勤を快適に行えるように、1人1人が心掛けることを目指したいものである。

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