毎回、たくさんの気づきや学びがある。今回の気づきは制約条件の持つ効用で、簡単に紹介してみたいと思う。
そもそも友禅染めとは、元禄時代に扇絵師の宮崎友禅斎によって確立された染色技法で、京友禅が最も著名だが、加賀友禅も負けずに素晴らしい。
両者は、同じ友禅だが少し違いがある。加賀友禅の方が、使える色の数、描く図柄などに制約、すなわち、「縛り」が多く、京友禅の方が自由度が高い。
しかし、加賀はその縛りを設けることで、独特の風合いを持ち、更には加賀友禅への思い入れ=プライドを醸成しているように感じた。
工房見学の際、友禅作家が出演した番組のビデオが流されており、何気なく見てみると冬に桜の木をスケッチしている場面だった。
もちろん、花など咲いている筈はなく、きものの図柄を描いているのではない。
なぜ冬の桜の木なのか?
作家曰く「冬場でないと枝振りが解らない。開花の時期は花で覆われており、木は殆どわからない。だから、今の季節に木を知っておく必要がある」
加賀友禅は、写実性を重んじる。「図は工房で机の上で書くものにあらず、外へ出て自然とふれあい描写すべし」が加賀の真骨頂である。
故に、図柄がかなりリアルに表現され、京友禅には決してない、虫食いの葉が描かれたりするのはこのためだ。
写実性を重視するからこそ、冬場に桜の枝をしっかりと見てスケッチしておく。
枝振りをしっているからこそ、花の時期でもその下にある枝をイメージしながら真の写実が出来る。
加賀五彩は色も決して鮮やかでなく、落ち着いた風合いだ。
作家曰く「冬の金沢は、曇天が続き鮮やかすぎる色は合わない。」
このような気候風土だからこそ、落ち着いた色合いでも飛び切り魅力的に引き出す技法が発達した。
ぼかし、グラデーション、それらを美しく発色させるための絶妙なスピードコントロールによる友禅流しなどである。
曇天、加賀五彩、写実性は加賀友禅の制約条件である。
この制約を乗り越えるために、人は創造しアイディアが生まれる。
京友禅とて、制約は多く存在する。
そもそも21世紀にきものという文化、つくるための手間、コスト、保管などがそれで、特に女性物は着付けにも時間がかかる。
そんな制約を乗り越えるために、様々な発明、アイディアが生まれ続けているのである。
金沢は更に制約を課し、武家の文化である、質実剛健の気風を活かした作風を守ることで、そこに暮らす人々に加賀人としてのプライドまで培っているのだと感じた。
日本には嘗て、もっと多くの「きもの」の産地が存在した。しかし、環境の変化に適応できず終焉を迎えたものは少なくない。
そんな中で加賀では、創意工夫を繰り返し、加賀の住人もその文化を愛し、親が子に巣立つ日に持たせる習慣が、今でも脈々と引き継がれている。
翻って、我々都会の住人はこれが無いからできない、この制約はフェアじゃない、このような非効率なものはすべきでない、などなどとすぐに不足を嘆く。
しかし、100%充足された環境など有り得ない。
寧ろ、逆境だからこそ、誰も考え付かない発想が出来る。必要は発明の母と割り切って、制約を楽しみ、創造力で乗り切る気概を持ちたいものだ。
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