2014年2月3日月曜日

平成メディア考-小保方博士の報道を検証する

2014129日、独立行政法人理化学研究所により、「体細胞の分化状態の記憶を消去し、初期化する原理を発見」したとのプレスリリースが行われた。

今や、日本中が注目する研究内容となった現象を、研究ユニットリーダーである小保方博士は、細胞外刺激による、体細胞からの多能性細胞への初期化現象を、「刺激惹起性多能性獲得」(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)、すなわち、STAP、その現象が生じた多能性細胞をSTAP細胞と名付けた。

100%キメラマウスひらたく言えば、「まだ個性付けされ分化する以前のいわば赤ちゃん細胞(多能性細胞)が、分化して大人(体細胞)になったら、初期化(また赤ちゃんに戻る)することは有り得ない」というのが科学の常識だったものを、初期化できることを確認したというものだ。

この素晴らしい研究内容にご興味のあるむきは、是非、理化学研究所、発生・再生科学総合研究センター、および同センター内の細胞リプログラミング研究ユニットのホームページを参照されたい。研究レポートも記載されている。
http://www.riken.jp/pr/press/2014/


今日は、この世紀の画期的発見そのものではなく、その報じられ方について考えてみたい。

筆者はかねがね、メディアに求められる姿勢、対して昨今の日本のメディア報道の在り方について、実際の事例を通じて考察し、提言したいと考えていた。
本投稿は、その第一弾と捉えて頂ければ幸いである。

さて、そのポイントだが、一連の報道を見て感じた違和感だ。一言でいえば、「あまりにも、研究活動、発表内容と関係のない報道ばかりがされていないだろうか?」というものだ。

具体的な内容としては、割烹着を着用している、髪型が素敵、指輪が高級ブランド、容姿が美しい、若い、女性、研究室がかわいい、などおよそ研究そのものとは無縁な内容ばかりを、各社が我先にと言わんばかりに加熱報道したのである。

その結果、小保方博士、理化学研究所から異例の報道自粛のお願いという内容が、ホームページに記載された。
小保方研究ユニットの記載
理化学研究所のプレスリリースがこちら

研究に専念したいので、小保方博士への取材はご遠慮下さい、というものである。


何故、ここまで追い込んだのか?
あるキー局では、卒業アルバム、本人が書いた作文、ポエムまで公開し、かなりの批判を浴びた。

殆どの局は、小保方博士をアイドルのように仕立て、研究内容と何ら関係のない、私的な内容の報道を繰り返し行った。
どのような思考をすると、この素晴らしい研究成果の報道を行うのに、卒業アルバムや、作文を入手して公開するという発想にたどり着くのか、甚だ疑問である。

メディアが伝える報道である以上、伝える内容は単なる事実の列挙ではなく、意図がなくてはならない。
しかし、その意図が本来伝えるべき内容から逸脱し、矮小化された内容となるのであれば、メディアとしての資質を疑われても致しかたあるまい。


海外メディアが今回の発表をどう捉えているのかを確認しよう。

BBCStem cell ‘major discovery’ claimed

CNN: Stem cell breakthrough may be simple, fast, cheap

New York times: Study says new method could be a quicker source of stem cells

いずれのメディアも、研究成果をしっかりと書いており、何ができるのか、何が素晴らしいのかにきちんと言及した内容である。

小保方博士のように、華やかなスター性があるキャラクターの人は、メディアが報道したくなるものだろう。しかし、メディアに真剣に考えて欲しいのは、今回本当に伝えるべき内容は何か?だ。

1つには、これまで科学の常識では有り得ないという、いわば常識破りを分厚い壁に阻まれながらも果敢に挑戦し続けることで、自らの仮説が正しかったことを実力で証明したことだ。

2つ目としては、共同研究として行われた成果で、小保方博士の研究ユニットだけではなく、若山照元山梨大教授(元理研チームリーダー)、ハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授らの国際共同研究チームによるものであることだ。

詳しくは、英科学誌「Nature」を参照されたい
Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency


それに対して、国内メディアは、

朝日新聞:泣き明かした夜も、STAP細胞作製、理研の小保方さん

読売新聞:かっぽう着の「リケジョ」、柔軟発想で快挙

日本経済新聞:万能細胞 リケジョの革命

海外メディアが内容を報道しているのに対し、国内報道はこぞって小保方博士個人を報道し、研究内容は二の次となっていた。


若い美しい女性であり、ファッションセンスがある、泣き明かして頑張ったといった「女性」、「美しい」、「耐えて頑張った」というもっぱら小保方博士個人に焦点があたる表現を報道した。

また、親しみやすいとでも勘違いしたのか、呼称として「小保方さん」、「リケジョ」など、およそ敬意が感じられない表現を使用したが、これがiPS細胞における、山中教授の報道であったならばもっと敬意を持った表現であったであろう。


日本のメディアが半ば‘常識’として行っているテンプレート(報道パターン=女性で若く美しいキャラであれば、個人とそのプライベートにフォーカスする)を、‘常識’に何も挑戦することなくバカの一つ覚えのように報道した。

彼らに、研究成果を「‘常識’と異なる」として当初頭ごなしに否定した、科学誌「Nature」や学会を責める資格があるのだろうか?

何故報道するのか?の意図がどこも同じ個人フォーカスであれば、メディアが複数存在する意味はない。

メディアは、絶大な影響力を持っている。力を持つ立場は、その行使の仕方に対して真摯であり、謙虚でなくてはならない。

メディアの質は、国の質をも左右する。


どの層をターゲットセグメント(主に視聴する、視聴して欲しいと狙う層)にしているのか解らないが、面白おかしい内容ではなく、メディアとしての意図をもった「内容で競う」誇りを持った報道を期待したい。

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