2013年10月29日火曜日

偽りの「おもてなし」の本質的な問題-阪急阪神ホテルズ

去る10月22日、株式会社阪急阪神ホテルズが運営する8つのホテルのレストランなどが提供していた料理の、実に47品目がメニュー表示と異なる食材を使用していたことを会社が公表した。

ニュース、ワイドショーなどで取り上げられ、「料理偽装」問題として大きな波紋を呼んでいる。

この問題、10月24日に社長の会見が行われ、「料理偽装」ではなく、「メニューの誤表示」と主張し、更に10月28日には、「担当者が産地や製法を拡大解釈していた」との認識を示したのである。

どのような「誤表記、拡大解釈」だったかといえば、以下のような内容だ。

芝エビと表記したが、実際にはパナメイエビだった。
信州の天ざると表記したが、中国の粉が混ざっていた。
レッドキャビア(マスの卵)が実際はトビウオの卵、鮮魚が冷凍保存、手ごねハンバーグが既製品。
自然卵のオムライスが、液卵を混ぜたり、九条ネギが普通のねぎであったりといった具合だ。

これが47品目に上り、少なくとも2006年3月から起こっており、その間の利用客は述べ8万7775名に上る。


社長曰く、
原因は、調理担当者が慣れていない、認識不足で食材を知らないためである。

或いは、部門間の連携が悪く、うまくメニュー開発サイドと運営サイドがコミュニケーションが出来ていなかったため、メニューが先行してつくられ、実際には異なった食材だった。

との理由であり、決して偽装表示ではなかった。というものである。


ここで、幾つかの基本的な問題をあげておきたい。
まず、扱っているものが食材で、提供している場所が名前の通ったれっきとしたホテルであり、調理はプロの料理人であったことだ。

誤表記、拡大解釈というより、悪意がなかったと仮定しても、私には「誠意のない表記」、「ホスピタリティに欠けたメニュー」という表現が当てはまるように感じてしまう。

誠意やホスピタリティが欠けたホテルは、それ自体問題ではないのか??


28日夜、改めて出崎社長が記者会見に臨み、今回の一連の問題の責任を取り、11月1日付で辞任する意向を表明した。

辞任の理由について会見では、

「再調査の結果、お客様を欺く意図がなかったことが確認された」と述べたが、

一方で「ただ、この理屈はお客様には通らない。裏切り行為にほかならず、単に表示を誤っていたレベルを超えた【偽装】との指摘を受けても仕方ない」とのことだ。

この一連のプロセス、行動を少し紐解いてみたい。
そもそも、ホテルとはどのような場所で、生業(なりわい)は何か?という、基本に立ち返れば問題の本質は自ずと見えて来るのではないだろか?

利用したり、宿泊する側にとって、ホテルとは、束の間心を癒す空間であり、まさしく従業員の質の高い「おもてなし」というホスピタリティを期待する、信頼できる場所であるべきである。


阪急阪神ホールディングスのグループ理念は以下の通りだ。

「『安心・快適』、そして『夢・感動』をお届けすることで、お客様の喜びを実現し、社会に貢献します」

次に、その傘下で今回の問題のホテルグループである、株式会社阪急阪神ホテルズの企業理念が以下である。

「心豊かな社会の実現に向けて
私たちは、常に変革に取り組み、『安心・快適』
そして『夢・感動』をお届けすることで心豊かな社会の実現に貢献します」


これらの素晴らしい企業理念に照らしてみて、従業員に、その顧客の信頼に応える認識がどこまであったのだろうか?


また、社長の最初の会見内容、その後の素早い辞任会見にも疑問が残る。

最初の会見ですべきことは従業員を庇うことだったのだろうか?
次の行動として、この早い段階での辞任を決めるべきだったのだろうか?
責任ある企業のトップとして、どのような責任を取ったといえるのだろうか?

企業のトップとして、まずすべきことは、利用顧客への信頼回復を第一に考えることであると思う。

そして、透明性の高い事実の究明を行い、根本的な課題の特定と、再発防止のために何をすべきかの明示を、企業理念に恥ずかしくないレベルで行うことが必要だ。

今回の問題で阪急阪神ホテルズが失ったものは、ホテルとしての信頼であろう。
単に社長が辞任しても、ホテルグループとして、残された従業員がどのようにしてこの難局に対応するのかは全く見えていない。

辞任する覚悟を決めたのであれば、トップの果たす責任として
「事の究明に全力で当たり、信頼回復のための道筋を明らかにすること」が必要であり、自らの出処進退はその後の対応ではなかっただろうか?

不謹慎な表現かもしれないが、こういう時だからこそ、責任あるある行動によって、「流石に阪急阪神グループだ」という信頼を示すチャンスでなのではないだろうか。



2013年10月8日火曜日

安倍内閣を振り返る-自分の国を見定める

2012年12月26日、安倍晋三氏が96代内閣総理大臣に指名され、第二次安倍政権がスタートした。

1,000人の有権者を対象にメディアが行っている各月の支持率をみると、9月中旬現在で65.2%と高水準を記録している。

衆参両院で多数を占め、体制は盤石で長期政権を伺わせる勢いだ。
だが、本当にそのように安定した政権なのだろうか?
今日は、この安倍内閣の検証をしてみたいと思う。

特に今回注目したいのは、先日発表になった消費増税、オリンピック招致での安倍総理のスピーチ、原発問題とトップセールス、そしてアベノミクスである。


まず、消費増税だが現行の5%を、2014年4月に8%へ引き上げることを決定した。
しかし、当初の目的である「社会保障と税の一体改革」への対応の筈が、年金制度、社会保障抜本改革は見送られ、増税だけが決まってしまった格好だ。

理論的には、消費税は1%増税につき2.7兆円の増税と言われるため、3%で約8兆円の増収が見込めることになる。


但し、少子高齢化の影響で、社会保障費は年間1兆円程度増えていることと、法人減税を計画していることもあり、仮に社会保障費にだけ充当したとしても、この増収分は、すぐに追いついてしまうことになる。

また、根本的な問題として、平成25年度一般会計予算の内訳をみると、更に恐ろしい景色が見えて来る。
歳入92.6兆のうち、税収は僅か43兆円で、実に5割弱は国債などいわゆる借金で賄われている。

反対に歳出は、社会保障費に29.1兆円、国債に22.2兆円(返済に12.3兆円、金利に9.9兆円)でこの2費目で55.4%を占めることになり、特に国債は約43兆円を新たに発行するのに対して、僅か12兆円強を返済するに過ぎない。


また、財務省のホームページによれば、25年度末公債残高予想は750兆円で、一般会計税収の17年分に相当する額とある。

このことから考えると8兆円の増収分が、余裕をもって何かに充てられると考えるには無理が有り過ぎると言わざるを得ない。

もちろん、政治は継続であり、安倍政権だけがこの気の遠くなる額の国債発行の責任者ではない。
しかし、今回の消費増税に際して上記の状況を十分に説明したと言えるのだろうか?



次にオリンピック東京招致は記憶に新しいところで、各方面でそのプラスの影響が出始めている。
国として久々の大きなイベントで、日本が元気になる引き金になってくれることを切に望みたい。

だが、一方で手放しに喜べない部分もある。
3.11の復興が遅れていることを考えると、特に招致活動における安倍首相の最終プレゼンに私は疑問を抱かざるを得ない。


「The situation is under control」
これは残念ながら明らかな「嘘」であり、このことは以前当ブログでも記載したので、参照頂けたらと思います。
http://richard-kanasugi.blogspot.jp/2013/09/blog-post.html


「鋭意努力している」、「今後も努力をし続ける」という発言であれば、オリンピック招致という目的を考えれば、解らなくはない。

しかし、これまで一貫して事故処理の対応の殆どは東電任せで行われており、放射能漏れは全くめどがたっていない状況の中、一国のトップがこれまでも全力で対応しており、現在は完全にコントロールできているという虚偽の発言をしたことで、この発言を聞いて釈然としなかった方々は決して少なくないと思う。


そのUnder controlにはない原発を、こともあろうに首相自らが海外へ赴きセールス活動をしていることに関しては、もし、1度でも重大な事故が起こった場合、誰がどのように責任をとるのか?と疑問を抱く。

そもそも現代の人類は対応する術を持ち合わせているのだろうか?
チェルノブイリ、福島の惨状を見るに有効な手立てがあるとは言い難い。

先日、小泉元首相が原発ゼロを今から実施すべきという発言をして話題を呼んだが、彼が原発を推進してきた立場の人間であることからくる発言の是非についての批判はともかく、放射性廃棄物の処理能力、事故が起こった場合の対応を考えると、極めて真っ当な投げかけであることは疑う余地はないだろう。



最後に安倍政権の柱とも言えるアベノミクス三本の矢について。

皆さんも良くご存知の通り、
第一の矢は、2%の物価上昇目標が達成されるまで無制限の金融緩和の実施

第二の矢は、13兆円規模の財政政策、すなわち公共事業などの投資である

第三の矢は、民間投資を喚起する成長戦略、有体に言えば民間企業の設備投資を喚起する

現在、第二の矢までは実施されており、最後は民間の投資ということだが、民間の投資を誘発するといっても、果たして簡単にできるのだろうか?


投資を喚起するためには、成長が見込めなければならない。成長しないのに投資する企業は無いからだ。

しかし、5年スパンでみると、1960年代をピークに実質GDP(経済成長率)は下がり続けている。
これは、日本市場は成長市場ではない、いわゆる「伸びない市場」ということだ。

伸びない市場においては、量、規模の拡大を誘発するのではなく、海外市場へ積極的に打って出るための質の向上、付加価値の増大を狙うべきである。

これすなわち、設備投資ではなく、グローバル人的資本、グローバル人財に対する投資である。
可及的速やかに、世界に通用する人材、リーダーの育成が必要だと考える。


しかし、以前当ブログにおいて記載したように、日本は内向き志向に向かっている。
http://richard-kanasugi.blogspot.jp/2013/07/blog-post.html

「2本の矢は放ったのだから、後は民間の投資の番だ」と言わんばかりの体制ではなく、どう積極的に3本目の矢を活用するのかを、政府も真剣に議論すべきではないのか?

或いは、「原発ゼロを実現する」、「同時にクリーンな代替エネルギーによる電力維持」、「電気料金は寧ろ低減することを実現する」という意思決定をし、新しい日本のエネルギー供給体制を実現するという舵をきった方が、第三の矢に相応しい原動力につながるのではないだろうか?



これまでの安倍政権の振り返りを行ってきたが、どの政策を見ても、現在の支持率が示すほど、実際の成果は追いついていないようだ。

今後も、憲法改正問題、国防軍の創設、TPP、消費税の更なる増税など、国の将来を決めるような大きな意思決定が控えている。

これは他人事でも、対岸の火事でもない。まさしく「自分ごと」である。

我々日本人、一人一人が現政権を「印象」で支持するのではなく、事実をしっかり見つめることで政権の運営に注視し、この国の舵取りを見守る必要があるのではないかと思う。