2013年7月12日金曜日

Common Sense(良識)を持つ-福島第一原発の吉田前所長を偲んで

東京電力、福島第一原子力発電所前所長、吉田昌郎氏が死去された。
食道癌、58歳の若さであった。
氏のご冥福を謹んでお祈り申し上げます。

ニュース番組では当時のビデオが流され、改めて吉田前所長の良識ある判断が無かったら、東日本がどうなっていたか?と想像すると、恐ろしい思いで溢れる。

その判断とは、本店からの原発への「海水注入を中止せよ」という指示を無視することだった。

読者の皆さんには釈迦に説法だが、あの状況下での吉田さんの判断は、今振り返っても素晴らしい英断だったと思う。


机上の空論という言葉が思い浮かぶ。

「海水をかけると原発が使えなくなるため、真水が到着するまで海水注入を待て」
という本店の机上の判断に対して、

吉田前所長は、目の前で爆発を目撃している現場の肌感覚として、注入を止めればチェルノブイリの10倍以上の大災害になると予想し、本店命令を無視して海水注入を続けた。

多くの専門家の分析では、あの判断がなければ、日本は北海道、西日本、九州と人の住めない東日本になっていた可能性が高いとの見解だ。


吉田前所長は、本当に「日本を救った恩人」であり、まさに「英雄」である。

その素晴らしい功績に対して東電は今回、癌の進行と被ばくは無関係との見解を発表。
曰く、吉田氏の被ばく量が70ミリシーベルトで、癌の進行を早める直接的な因果関係は認められないという主張である。

有体に言えば、「会社は関係ない」という意味であろう。



一方、つい先日南三陸町役場の危機管理課職員、遠藤未希さん(天使の声)ら33に対する、特殊公務災害の申請が却下(32名+未定1)された。

特殊公務災害とは以下の要件を満たした場合、傷病補償年金、障害補償又は遺族補償について特殊の加算措置を講じるシステムである。(以下、抜粋)

特殊公務災害の要件
特殊公務災害補償の対象となる職員は、警察官、警察官以外の警察職員、消防吏員(常勤の消防団員を含む。)、麻薬取締員及び災害対策基本法第50条第1項第1号から第3号までに掲げる事項に係る災害応急対策に職務として従事する職員。
(今回の南三陸町の危機管理課の皆さんの行為は該当します)

特殊公務災害は、これらの職員がその生命又は身体に高度の危険が予測される状況の下において、犯罪の捜査、火災の鎮圧その他政令で定める職務に従事し、そのために公務上の災害を受けたときに該当する。


天使の声は、最後まで、津波を避けるため逃げ惑う市民に高台への非難を呼びかけ続けて、自らの命を落としてしまった。

却下の理由は、放送していた場所は避難場所に指定されており、上記要件の「高度の危険が予測される」場所とは想定できなかった。というものだ。

しかし、実際に彼女が呼びかけた避難先は、その「危険とは想定できない庁舎」ではなく、もっと高台である。

理由は、6メートル以上の津波が予想され、庁舎では間に合わないことがわかったからである。

彼女たちの咄嗟の決断は、自らの危険を承知しながらも、最後まで放送を続けるというものであった。

この結果、町民の半数近くが難を逃れることが出来、多くの人が「あの女性の声が無かったら助からなかった」とコメントしている。


特殊公務災害基金も、東電も規則だから、基準に該当しないから、というのが言い分である。
あえて申し上げたい、それが一体何だというのか?規則は何のために存在するのであろう?

もともと、特殊公務災害は浅間山荘事件で、殉職した警官に何か報いる手立ては無いか?ということで作られたものである。

その設立の趣旨に今回の「役場の皆さんの貢献が該当しない」と、本気で考えているのだろうか?

判断した担当者が、厳密に該当しないものを適用したことを責められないための保身なのではないか?と疑いたくなるような杓子定規な決定だと感じる。

南三陸町の職員の皆さんも、吉田前所長も、自らの命を賭して市民を、国民を救ったのである。

私は、このような勇気ある人々を称えることに、何を恥じることがあるのか理解に苦しまずにはいられない。

補償金を出すか否かを問うているのではなく、何故、これだけの行為をした人達に感謝の意を表することを躊躇するのか?を問いたい。

ルールが無ければ作れば良い。良識として、彼らに報いなくて誰に報いるというのだろう。

もうそろそろ、官僚や役人、世間ずれした一部のエリート意識の人々には目覚めて欲しい。我々は現実を生きている。Common Senseとして彼らの勇気をほんの少し真似て、堂々と何らかの方法で報いて差し上げて欲しい。


今後、第二第三の英雄が自信を持って行動出来る国にするために。

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