2013年7月2日火曜日

内向きから外向きへ-不易流行の思想

先日、OECD(経済協力開発機構)が「図表でみる教育2013」を公表した。

その中で、大学などの高等教育機関に在籍する学生のうち、
海外で学ぶ日本人留学生の割合が加盟34か国中2番目に低い1.0%であることが明らかになった。(2011年実績)

因みに1位はアイスランドの18.9%で、最下位34位は0.3%の米国である。

他国と比較して水準が低い、というだけではない。
海外で学ぶ日本人留学生数のピークは、2005年の62,853人だったが、2011年の実績では38,535人だ。
ほぼ半減しているのだ。

その理由について、OECDは、海外に出るリスクへの恐れと分析している。


分析の真偽はともかく、今回の留学生減少に加え、昨今の憲法改正や靖国問題、安倍首相の様々な発言に対する「右傾化」論議などをみていると、少なからぬ人々が、世界を観ているというよりは、日本国内に焦点が当たる、内向き志向になりつつあるのでは?と疑いをもつのは私だけだろうか。


上記のような観点も踏まえると、これまでの数十年と比べ、最近の日本は明らかに変化している。その変化に少し不安定な雰囲気を感じ、ひとつの言葉を思い出した。

「不易流行」という言葉だ。

私はこの言葉が好きで、たまに引用する。
俳人松尾芭蕉が提唱したとされる言葉だ。

意味は、「不易」が変わらないこと、つまり原理原則のような位置づけで、
一方「流行」とは、絶えず新しさを追求すること。

一見矛盾するようだが、その意味するところは、本質を変えないために、常に新しさを追求し変化していくという概念である。

今の日本は不易なのか?と考えると、本質が見失われて、流行ばかりが先にたっているように感じる今日この頃だ。



しかしこの概念、実は様々な分野において上手に活用されている。

例えば日本の伝統産業でも、現在も伝統を受け継いで力強く生産を続けている産地は、この考え方を実践していることがわかる。

例えば、有田焼。
1992年をピークに売上が半減していたところ、空間デザイナーや、海外の有名デザイナーなどともコラボレーションを行ったり、いくつもの窯元同志がデザインを共有した製品をつくったりと、400年の歴史上初めての挑戦をし続けて、復活に向け邁進している。

南部鉄器も、フィンランドのデザイナーと組んで、ヨーロッパに合ったデザインの南部鉄器を開発し、実際に、現地のホテル、レストラン、家庭でも活用され始めている。

京都、博多のきもの産業も、伝統を守りつつも、製造工程の見直しを常に行い、現代のニーズに合わせた製品開発を行い続けている。


全てに共通することは、お客様目線に立ち、使ってもらえるお客様のニーズをしっかり理解し、伝統を守りつつも新たな概念、技術を積極的に取り入れ改革を行っていることだ。

歴史ある伝統技術、名前に奢ることなく常に挑戦し続けることで、寧ろ新たな発明、発見、革新を成し遂げ、消費者に進化した伝統品を提供してくれている。


お客様目線にたつ。
簡単なようでいて難しい。

その実現に不可欠な要素は、常に外に目を、耳を向けること。
広くアンテナを張リめぐらし、人に関心を持ってどのような情報でも逃げずに受け止め、
お客様になったつもりで考え続けることだ。

内向きの観点からは、変革は起こらない。
守るべき伝統と、変えるべきこだわりや偏見を見極めること。その目を持つこと。
それには常に新しい情報や人に触れる外向きの志向が必要だ。



改めて日本人留学生問題を考えてみよう。
34位のアメリカは別格とすれば事実上最下位だ。

しかし日本は貿易立国である。
各企業は、今後益々海外とのやりとりを積極的に行える、真の意味でのグローバル人材を求めている。

しかるに、留学生が半減しているのは明らかにその流れに逆行している。
単に目に見えない漠然とした「リスクへの恐れ」という理由で、内向きになってしまっているとしたら、これは余りにも大きな機会損失だ。

留学だけが解ではない。
しかし、留学は単に学問を学ぶだけの機会ではない。
海外を知る、他の国の友人を持つ、海外から日本を見る、日本を知ってもらうという意味において、新しい情報交換の宝庫である。

学生だけではなく、私自身も含め、今の日本人に必要なことは、日本のアイデンティティを持った上で、あらゆる機会、新鮮な情報に対してもっと貪欲になること。
そして、大きな視点で物事を考える機会を増やすことで、「グローバルな日本人」に進化し続けることではないだろうか。



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