2014年5月6日火曜日

パトロンシップのススメ

パトロンという言葉を聞くと、皆さんは何を思い浮かべられるだろうか?

広辞林を見ると、以下の2つの意味が記載されている。
①芸術家や芸人または、特定の団体などを経済的に援助する人。後援者。
②水商売の女性に金を出して援助する人。

もともとの意味を確認してみると、ラテン語のパテル(pater、父)から派生したパトロヌス(patronus)に由来する言葉で、意味するところとしては保護者で、法的、財政的、政治的援助を与える存在。である。

この意味からすると、上記①の意味をもう少し幅広くしたような概念と考えれば良いものと思う。

私が本日、提唱したいパトロンシップは、もともとの意味に近い概念で、対象となるのは、文化、芸術に留まらず、技術者、伝統工芸や優秀な起業家、企業における部下なども含む概念である。

パトロンの例をあげるとすれば、フィレンツェの同業者組合、メディチ家、ルネサンス・バロック期のローマ教皇、カーネギーなどが代表的な個人、団体であり、彼らがいたからこそ、その支援を受けた若者たちが多いに力をふるって、ルネサンス、近代芸術、科学などが花開き、促進されたと言っても過言ではあるまい。



日本においても、例えば伊勢神宮も素晴らしいパトロンと言える。
もともと、有名な式年遷宮が何故20年に一度かと言えば、素晴らしい技を持つ、職人の技術伝承のためである。

もちろん、神道の精神として常に新たに清浄であることが求められたためでもあるが、20年に一度と定められた大きな理由としては、熟練の宮大工が次の世代へ技術伝承するには、少なくとも遷宮を2度経験することが必要だったためである。

記録によれば第1回の遷宮は、西暦690年から始められ、途中戦国時代などで中断や延期などがあったものの、昨年の第62回まで、およそ1300年継続されている。

遷宮する対象は、2つの正宮の正殿、14の別宮の社殿、および65棟の殿舎、橋などが造り変えられ神宮司庁によると費用はおよそ550億円とのこと。



才能を開花させるための援助の仕組として、世の中には各種の奨学金制度は存在する。

しかし、筆者の提唱するパトロンシップは、広い概念で才能を伸ばすというよりは、伊勢神宮の式年遷宮や、ルネサンスのパトロンが行ったように、素晴らしい技術、知識、経験をもった人に、自らの技を次の世代を担う才能ある人々に伝承するために、協働することで更に高い技を磨いてもらうために、明確な目的をもって高いレベルのゴールに挑戦する機会を提供することだ。


JR九州の「ななつ星in九州」にも素晴らしいパトロンシップが見てとれる。極上の旅を演出してくれるのは、先端技術から、伝統工芸までを網羅する圧倒的な技術に支えられている。

いくつか例を挙げると、騒音、振動が抑えられた川崎重工の特殊車両の機関車、JR九州と日立製作所の共同開発による、ピアノ演奏を楽しむための防音設計の客車、ヒノキ工芸、備前家具製作所による一流ホテル並みの木工家具、有田焼の名窯である、柿右衛門窯、今右衛門窯、源右衛門窯による磁器、組子欄間などなどで、殆どのものが既製品ではなく、ゼロからデザインして作成された。

技術者は「技」は磨けるが、その技を更に伸ばすために挑戦する機会は、パトロンシップによって提供されなければ、技術者個人には限界がある。

ななつ星の磁器を担当された一人、十四代酒井田柿右衛門さんが生前、この七つ星の挑戦を心から感謝し、楽しんでおられたご様子をTVで紹介している映像を、今でも鮮明に記憶している。

読者諸氏の皆様の感じ方は様々だと思うが、私自身は現在の日本にかなり閉塞感を感じており、大きな転換点を必要としているように感じている。どんどん増えるシャッター通り、無くなってしまった伝統工芸など枚挙に暇がないほどだ。

筆者の提唱するパトロンシップは、先に述べた奨学金とは異なり、かなり明確に責任を伴うもので、プレッシャーを感じ、それを乗り越えてはじめて得難い価値を享受できるものだ。

ルネサンス期のパトロンは、それこそ無理難題をオーダーする。画家や芸術家はいかにしてその無理を凌駕できるかに挑戦し、見事凌駕した作品は、世界的、歴史的芸術品としていつまでも残る。

伊勢神宮を20年間に参拝する総数は、およそ1億人。(因みに、昨年は史上最多の1,420万人)その1億人の参拝客が、見るに足る出来栄えにしなくてはならないプレッシャーを乗り越え、期日に合わせて完成させる。

身近な例でいえば、震災後の牡蠣養殖復活、災害復興などのためのマイクロファンドなどもパトロンシップを感じる活動であり、もっと身近ではふるさと納税もその一歩だと考えられる。

投資する側は、必ずしもリターンを第一に考えるのではなく、もっと大きな視点にたって投資する。しかし、投資される側は、しっかり責任、プレッシャーを感じて期待に応えるために最大限の努力をする。その結果、高い壁を創意工夫することで乗り越えることで、単なる伝承ではなく新たな技術を習得する機会とする。

日本を元気にするためのひとつの方法として、私はこのパトロンシップという考え方を喧伝したいと考えており、当ブログでも、折に触れ様々な視点での活用法について述べさせて頂きたいと考えている。